業務上使用する写真の撮影を有料で外部に委託したのにその著作権を譲り受けることができない場合とは
法人などが業務上使用する写真の撮影を外部の個人や法人に委託した場合に、発注者がその写真の著作権を取得できたかと思っていたら、実はきちんと著作権を取得していなかったために後でその写真の取り扱いを巡って撮影者側とトラブルになるケースがあり、ご相談を受けることがあります。
個人写真家に撮影を委託した場合
発注者と個人写真家との間にいわゆる職務著作(15条1項)が成立すれば、個人写真家を発注者の従業員にあたると考えて、個人写真家の撮影した写真の著作権が発注者側に帰属すると考えることができます。
この点、判例上は職務著作が成立するための要件について「法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断」するとされています。
しかし、実際上写真撮影を委託する外部の個人写真家が「法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できる」といえる場合は多くなく、発注者と個人写真家との間で職務著作が成立する場合は多くないでしょう。
やはり、個人写真家に業務上撮影を委託する場合、きちんと契約書を締結して著作権(著作権法27条及び28条の権利を含む)の譲渡及び著作者人格権の不行使を明確に取り決めておくことが必要不可欠といえます。
法人に撮影を委託した場合
法人に撮影を外部委託した場合は、さらに厄介な問題が生じえます。
発注者が法人との間で業務委託契約書を取り交わし、その中で写真の著作権の譲渡及び著作者人格権の不行使を定めていても、これを実際に写真を撮影した発注先法人の従業員に対しても主張できるとは限らないからです。
これは一体どういうことでしょうか。
先ほどご紹介した職務著作制度は、法人等が「自己の著作の名義の下に公表」する場合に従業員の製作した著作物の著作権が法人に帰属するというものでした。ところが、外部法人に撮影を委託した写真の著作権は、もともと当該発注先法人の名義で公表されることを予定していません。すなわち「自己の著作の名義の下に公表」するという要件を満たさないために職務著作は成立しえないのです。
このままでは、発注者が法人との間でどのような内容の契約を取り交わしたところで、法人自体がその写真に対する著作権を有しないので、発注者はその著作権を譲り受ける術を持たないということになります。
こうした問題に対する有効な解決策は一つだけで、発注先の法人に対し、従業員との間で従業員が撮影した写真の著作権をきちんと譲り受けることができる(及び従業員が著作者人格権を行使しない)内容で契約が締結されているかをあらかじめ確認すること、この一点に尽きます。しかし、ここまでリスク対応ができている発注者の方は、まだ非常に少ないのが現実ではないでしょうか。
業務上使用する写真の撮影の外部委託一つをとっても、どれだけ大きな法的リスクが潜んでいるか、本コラムからその一端をご理解いただければ幸いです。