建物賃貸借
契約期間
賃貸借の最長期間につき、民法604条では最長20年間とされていますが、借地借家法29条2項で民法604条の規定によりは建物の賃貸借については適用除外とされ最長期間についての制限はありません。
一方、借地借家法の適用がある建物賃貸借の期間は、最短1年以上と定めなければならず、期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなされます(借地借家法29条1項)。この規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効となります(30条)。
これに対し、定期建物賃貸借については、短期、長期のいずれについても制限はありません。
契約の終了―更新拒絶・解約申入れ
賃貸人は、期間の定めのある契約については期間満了前の1年前から6ヶ月前までの間に更新拒絶通知をすることで契約を終了することができるとされています(26条)。また、期間の定めのない契約については6ヶ月前の解約申し入れ(27条)により契約を終了させることができるとされています。
もっとも、いずれの場合においても、有効に契約を終了させるためには、正当事由が必要とされています(28条)。建物賃貸借における借主保護の要請から設けられた規定です。
合意更新の場合、期間を定めればそれによりますが、期間を定めなかった場合には期間の定めのない契約となります。
賃貸借契約解除と信頼関係破壊の法理
建物の賃借人に債務不履行が存する場合、賃貸人はこれを原因として賃貸借契約を解除し、建物からの退去を請求することができるのが原則です。
しかし、不動産賃貸借の場合、借主を保護すべきという要請から、賃借人に債務不履行があっても、なお信頼関係が破壊されていない場合には、賃貸借契約の解除は認められないものとされています。これはこれまでの判例の蓄積から認められたもので、信頼関係破壊の法理といいます。
賃料増額・減額請求について
当事者間においていったん賃料が合意されても、期間経過により、物価や税金など社会経済事情が変動し、不相当な額となることがあります。そこで、借地借家法は、賃貸借の一方当事者に賃料の増額、減額を請求する権利を有すると定めています(32条1項)。賃料が不相当に安くなった場合には賃貸人が賃料増額請求を、不相当に高くなった場合には賃借人が賃料減額請求を相手方に対してすることができます。
賃料増額・減額請求にあたって考慮される要素とは?
借地借家法32条1項では「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」と規定されています。
このように、借地借家法の条文上は
- 土地建物に対する税金等の増減の状況
- 土地建物の価格の上昇下落その他の経済状況の変動
- 近隣に所在する同種建物の賃料状況との比較
の3つの要素が掲げられていますが、これはあくまで例示と解されており、実際の賃料増額・減額請求の調停や訴訟においてはその他の事情も斟酌されることになります。
賃料増額・減額請求にあたってはどのようにして権利行使すればよいか?
賃料増額・減額請求は、相手方に対する意思表示によって行うことになります。実際上は証拠として後にきちんと残るよう書面で行うのがよいでしょう。
賃料増額・減額請求の流れはどのようになっているか
賃料増額・減額請求の交渉を行っても話がまとまらない場合、増額、減額を求める側はまず簡易裁判所に調停の申立をしなければなりません。これを調停を訴訟に先立たせなければならないということで「調停前置主義」といいます。「調停前置主義」は当事者間の話し合いによる合意を重視した制度で、離婚などにも例がみられます。
こうして調停を申し立てたがなお和解が成立しなければ、賃料増額・減額請求訴訟を提起して賃料の増額、減額を求めることになります。
敷金・礼金等
賃貸借契約締結の際、敷金や礼金(権利金)と呼ばれる金銭が授受されることがあることは周知の事実です。
ここに敷金とは、賃貸借契約締結に際し、賃貸人が賃貸借契約上発生する賃借人の債務を担保する目的で、賃貸借が終了して明け渡しが完了した後に、賃借人に賃料債務その他の債務があればそれを差し引き、その残額を賃借人に返還する約定の下、賃借人から賃貸人に交付され、預託される金銭のことをいいます。敷金については、その返還をめぐるトラブルが多発したことから、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を定めています。こちらは原状回復をめぐるこれまでの裁判例や取引実務の蓄積を踏まえつつ、原状回復における賃貸人・賃借人間の費用負担のあり方について一般的な基準を示すものとなっています。
これに対し、礼金(権利金)とは、同じく賃貸借契約時に賃借人から賃貸人に支払われる金銭ですが、そもそも賃借人への返還が予定されていないもののことをいいます。住居用物件については敷金、事業用物件については権利金と呼ばれることが多いようですが、その性質に大きな違いはありません。礼金(権利金)が授受される趣旨ですが、①賃料の前払いである、②賃借権譲渡・転貸の対価である、③賃借権設定自体ないし場所的利益の対価であるなどといわれています。
借主の原状回復義務
賃借人は、建物賃貸借契約が終了した後、建物内に持ち込んだ物(動産)を撤去し、付属させた物を取り外して収去し、かつ、建物を原状(建物賃貸借契約締結当初の状態)に復する義務(原状回復義務)を負っています。
建物を使用すれば、室内の床・壁・天井・建具・設備などに汚損や損傷(「損耗」といいます)が生ずることになりますが、この中には賃借人の建物の利用の仕方がいささか手荒であることによって生じるものもあれば、通常の使用に伴ってある程度の損耗を余儀なくされるものもあります。こうしたことから、賃借人はどの程度まで原状回復義務を負うのかが問題となります。
必要費と有益費
必要費とは、賃借目的物の修繕を行い、これを使用に適する状態に保持しておくための費用のことをいいます。電気、ガス、水道といったライフラインに関する器具が故障した場合の修繕費用がこれにあたります。賃借人がこの費用を支出した場合、賃貸人は直ちにその費用を償還しなければなりません(民法608条1項)。
有益費とは、賃借人が建物を改良するために支出した費用のことをいいます。賃借している建物の部屋にエアコンを新設する費用は有益費といえるでしょう。賃借人がこうした有益費を支出することにつき、賃貸人の同意は必要ではありません。
賃借人によるこうした有益費の支出によって建物の価値が増加した場合、その増加価値を賃貸人にそのまま無償で取得させることは衡平とはいえないため、賃貸人は賃借人に対し、賃貸借契約終了時に有益費のうち一定額を償還しなければなりません(民法608条2項)。
なお、賃借人が有益費の償還請求権を予め放棄する旨の建物賃貸借契約の特約は有効です。
造作買取請求権
賃借人は、建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、もしくは、建物の賃貸人から買い受けた造作について、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができます(33条1項)。これを建物賃借人の造作買取請求権といいます。
もっとも、造作の設置について賃貸人による同意がない場合には賃借人には造作買取請求権はありません。また、賃料不払による債務不履行解除の場合も賃借人に造作買取請求権はありません。法を守らない者に法は手を差し伸べないのです(「クリーン・ハンズの原則」といいます)。
なお、現在は造作買取請求権を予め放棄する旨の建物賃貸借契約の特約は有効です。
以上