不動産売買

契約解除

今回の民法(債権法)改正による契約解除の制度を巡る変更点は下記のとおりです。

  1. 従前から条項のあった催告解除のほかに無催告解除の条件が明文化されました。どちらも債務者の「責めに帰すべき事由」は不要となりました。
  2. 催告解除における催告の期間を経過したときにおける債務の不履行が当該契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、契約を解除することができません。
  3. 債務者に「責めに帰すべき事由」がないときであっても、「契約の目的を達することができないときは」契約を無催告解除することが可能です。
  4. 債務不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるときは、催告解除も無催告解除も認められません。
  5. 解除権を有する者が故意もしくは過失によって契約の目的物を著しく損壊し、もしくは返還することができなくなったとき、または加工もしくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は消滅してしまいます。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りではありません。

手付

今回の民法(債権法)改正により、手付に関しては「売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。」から「売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。」と改正されました。ここで実務上留意すべきことは、売主は手付の倍額を実際に買主に払い渡ししなくても現実の提供をすることにより手付解除を行うことができることが明文化されたということです。買主が売主による手付の倍額の償還を受け取ろうとしない場合に有効な規定です。
また、「履行の着手」については「当事者の履行の着手」から「相手方の履行の着手」に改められました。
このように、手付についてはこれまでの最高裁判例の内容に沿って改正がなされています。

瑕疵担保責任から契約不適合責任へ

今回の民法(債権法)改正では、瑕疵担保責任が契約適合責任へと大きく転換します。その概要は、以下のとおりです。

広義の不適合責任 権利の不適合
  1. 権利の全部が他人に属する場合、移転した権利の内容が契約の内容に適合しない場合
    → 債務不履行に関する一般原則(契約解除と損害賠償)で処理
  2. 権利の一部が他人に属する場合、移転した権利の内容が契約の内容に適合しない場合
    → 契約不適合責任の規定を準用
狭義の契約不適合
  • 目的物の種類または品質による契約不適合
  • 瑕疵担保責任から契約不適合責任へのリニューアル
  1. 売主の担保責任は「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」となり、法定の「無過失責任」から「契約責任」へと転換されることになります。
    無過失の法定責任である、目的物に関する「瑕疵担保責任」は、目的物の種類または品質に関する「契約の内容に適合しない場合の売主の責任」(これを「契約不適合責任」といいます)に転換されることになりました。買主には、従前の契約解除権や損害賠償請求権に加え、※追完請求(修補や代替物引渡しの請求)、代金減額請求権が認められます。以上の目的物に関する契約不適合責任の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しない場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しない場合を含む)について準用されます。

    追完請求に関する新規定
    「売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。」(改正法562条1項)

  2. 権利の全部が他人に属する売買(他人物売買。契約としては民法上有効に成立するものです)は、債務不履行に関する一般原則で処理されますので、契約解除と損害賠償請求で処理されることになりますが、追完・代金減額請求権の規定は適用されません。
  3. 契約不適合に関して、売主に「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らし責めに帰すべき事由」がある場合には、買主は信頼利益(契約が有効であると買主が信じたために被った損害の賠償)のみならず履行利益(契約が有効に履行されたならば買主が得られたであろう損害の賠償)の請求も認められます。
    このように、契約不適合が認められる場合の売主の責任が加重されることになりますので、中古不動産の売主としては売買時におけるインスペクション(専門家による調査)を受けておくことが重要となるでしょう。
  4. 追完請求権や代金減額請求権の規定は買主による損害賠償請求や解除請求権の行使を妨げないとされました。
    もっとも、代金減額請求権と履行利益の損害賠償請求権、解除権は両立しないと考えるべきでしょう。
  5. 買主は原則としてまず修補を請求しなければ代金減額請求権を行使できないこととされました。売主に修補の権利を認めたのです。
    ここでは買主の方で修補した場合にその修補費用を売主に損害賠償請求できるかという別の論点がありますが、売主に対して修補請求もせずに買主の方で一方的に修補してしまうと売主の修補の権利(契約不適合について売主自ら検証する利益)を奪うおそれがありますので、買主は修補費用を売主に損害賠償請求できないとする説もあり、注意が必要です。

瑕疵担保責任と契約不適合責任の構造的な違い

瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換は、法定責任から契約責任への転換とされます。では、それぞれの責任の判断枠組みはどのようになっていて、そこには一体どのような違いがあるのでしょうか。

従来の瑕疵担保責任における判断枠組み
  1. 契約時の社会通念に照らし、売買目的物が通常有するものとされる品質、性能を有していない(第一判断)。
  2. 当事者の特段の合意、予定した内容に適合しない(第二判断)
1及び2がいずれも認定された場合に瑕疵担保責任の存在が肯定されていました。
契約不適合責任における判断枠組み A 契約(合意)の内容に適合しない(第一判断)
B (合意の内容があいまいなときは)契約時の社会通念に照らし、売買目的物が通常有するものとされる品質、性能を有していない(第二判断)

以上を比較すると、ちょうど①とB、②とAが対応し、瑕疵担保責任と契約不適合責任とでは第一判断と第二判断の順序が逆になっていることがわかります。
ただし、判断順序が逆なだけでそれ以外の判断枠組みは変わらない、というわけではありません。とりわけ契約不適合責任においては、Aの第一判断に現れる「契約(合意)の内容」の内容が果たしてどのようなものであったか、の解明が重要なものとされることは明らかです。こうしたことから、瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換にあたっては、不動産売買契約当事者間の特約の存在がより重要性を増すといえそうです。

特約の効力

瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換に伴い、特約の効力は何が変わり、何が変わらないのでしょうか。

従前の瑕疵担保責任における特約の効力

従前の瑕疵担保責任においては、瑕疵担保を負わない旨の特約も有効であるものの、売主が悪意、すなわち瑕疵の存在を知っている場合は特約の効力を有しないとされていました(旧法572条)。

契約不適合責任における特約の効力

一方の契約不適合責任においては、契約の内容に適合しない場合でも契約不適合責任を負わない旨の特約は有効と解されており、ただ売主が契約の内容に適合しないことを知っていた(悪意)の場合は特約の効力を有しないと規定されています(改正法572条)。このあたりは旧法とよく似ているともいえます。
もっとも、契約不適合責任においては当事者間の契約の内容が非常に重視されるため、例えば売主が雨漏りの存在を知って建物を売ったとしても、そもそも雨漏りの存在を前提として売買契約が取り交わされていれば、特約の存在はなお有効といえますし、反対に買主が雨漏りの存在を知って建物を購入したとしても、雨漏りが存在しないことを前提として売買契約が取り交わされていれば、買主による修補請求権や契約解除権の行使は妨げられないと考えられます。

消費者契約法8条、宅建業法40条による修正

ただし、売主が事業者、買主が一般消費者という消費者契約法が適用される場合は消費者契約法8条で、売主が宅建業者であり買主が宅建業者以外の宅建業法が適用される売買契約の場合は宅建業法40条で、売主が契約不適合責任を負わない旨の特約は無効になると考えるべきでしょう。

権利行使の期間

瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換に伴い、権利行使の期間は一体どのように変わったのでしょうか。

瑕疵担保責任における権利行使の期間

瑕疵担保責任における権利行使の期間は、買主が瑕疵を知った時から1年以内の権利行使が必要であるとされてきました。また、その他にも瑕疵担保責任は10年間の消滅時効にかかるとされていました。
一方、売主の悪意等の主観は瑕疵担保責任の権利行使の期間制限に影響を及ぼすものとはされてきませんでした。

契約不適合責任における権利行使の期間

  1. 契約不適合責任については、権利行使ができるとき(具体的には引き渡し時)から10年間の消滅時効にかかるとされています。こちらは瑕疵担保責任の時代から変化がありません。
  2. 1の期間内に買主が不適合の事実(数量不足を除く)を知った場合、知ったときから1年以内に売主に通知し、かつ、知ったときから5年以内に権利行使をしなければ時効にかかり、買主はその不適合を理由とする履行追完請求、代金減額請求、損害賠償請求または契約解除ができなくなってしまいます。
    買主は契約不適合を知ってからまずは1年以内に売主に契約不適合の事実を通知し、次いで5年以内に買主に対して訴訟提起するなど権利行使すればよいので(今まではここまでを1年以内に行う必要があった)、瑕疵担保責任の時代と比較すると売主に対する契約不適合責任の追及に時間的・精神的な余裕が生まれそうです。
  3. 売主が引渡し時に目的物が契約の内容に適合しないものであることを知っていたとき、または重大な過失によって知らなかったときは、買主の契約不適合を知ってから1年以内の通知義務が免除されます。この場合も、5年以内の権利行使義務及び10年間の時効期間は変わりありません。
    このように、瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換に伴い売主の主観が権利行使の期間制限に影響を及ぼすことになりました。

以上

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