民事訴訟を起こすには

民事訴訟を起こすにあたっては、(1)どこの裁判所に提訴すればよいか、(2)提訴にあたって裁判所に納める費用は幾らくらいかかるのか、という問題があります。以下、解説してまいります。

どこの裁判所に提訴したらよいか~裁判管轄(土地管轄)の問題

民事訴訟を提起する場合、一体どこの裁判所に裁判を起こせばその事件を受け付けてもらうことができるのかという問題があり、これを裁判管轄(土地管轄)の問題といっています。

裁判所の土地管轄は、原則として被告(訴えられる側)の現住所地を管轄する裁判所ですが、現実には工夫をしつつ多くの裁判は原告(訴える側)の住所地を管轄する裁判所に提起されます。 原告からすれば被告の住所地を管轄する裁判所は遠方となる可能性もあるので、当然といえば当然のことといえます。

また、訴えの種類(訴訟類型)により、原告または被告の住所地以外にも管轄となる裁判所があります。
以下では具体例を挙げて、主な訴訟類型ごとの裁判管轄について紹介します。

具体例 現住所 管轄する裁判所
原告 Aさん 横浜市在住 横浜地方裁判所
被告 Bさん 東京都中央区在住 東京地方裁判所

(1) 財産権に関する訴え

財産権に関する訴えとは、要するに財産(例えばお金)をめぐる訴訟のことです。

たとえば、請負人が請負工事の代金を注文者に対して請求する(請負代金請求事件)などです。

これらの訴訟は、民事訴訟法により、義務履行地(支払いをなすべき場所)で提起することができるとされています。

ところで、ほとんどの財産上の権利義務は、民法上、義務がある人(債務者)が権利のある人(債権者)のところへ行って、義務の履行を行うべきとされています。

したがって、この財産権に関する訴えに該当しさえすれば、被告(債務者)の住所地ではなくて、原告(債権者)の住所地が義務履行地となり、原告はそこを管轄する裁判所で裁判を起こすことができるのです。

すなわち、上記の例でいえば、原告の請負人は請負代金の支払いを求める側の住所地で訴訟提起をすることができるということです。

具体例 現住所 管轄する裁判所
原告(請負人) Aさん 横浜市在住 横浜地方裁判所
被告(注文者) Bさん 東京都中央区在住 東京地方裁判所

具体例ですと、原告のAさんはご自身の住所である横浜市を管轄する横浜地方裁判所に訴訟提起することが可能だということになります。

(2) 不法行為による損害賠償請求

不法行為による損害賠償請求とは、原告が被告に対して、違法にその権利を侵害され侵害を被ったので、その損害を賠償せよと被告に対して請求する訴訟です。

たとえば、交通事故の被害者が加害者に対して訴訟で損害賠償請求する場合などです。

この不法行為による損害賠償請求訴訟においては、その不法行為が行われた場所で裁判を起こすことができることが民事訴訟法に定められています。

具体例 現住所 管轄する裁判所
原告(被害者) Aさん 横浜市在住 横浜地方裁判所
被告(加害者) Bさん 東京都中央区在住 東京地方裁判所
交通事故発生場所 埼玉県さいたま市 さいたま地方裁判所

具体例ですと、被害者のAさんは加害者のBさんの住所地を管轄する東京地方裁判所のみならず、交通事故発生地を管轄するさいたま地方裁判所に訴訟提起することも可能であるということになります。

(3) 不動産に関する訴え

不動産に関する訴えとは、特定の不動産をめぐる訴訟のことをいいます。

たとえば、建物の不法占有者に対して提起される建物の明渡し請求訴訟などです。

この不動産に関する訴えの場合、その不動産の所在地でも裁判を起こすことができます。

具体例 現住所 管轄する裁判所
原告(オーナー) Aさん 横浜市在住 横浜地方裁判所
被告(賃借人) Bさん 東京都中央区在住(退去済み) 東京地方裁判所
建物の所在場所(不法占有者Cあり) 千葉県千葉市 千葉地方裁判所

この場合、原告のAさんは問題の建物が所在している場所の管轄裁判所であることを理由に千葉地方裁判所に対して訴訟提起することができるということになります。

(4) 事務所又は営業所に関する業務に対する訴え

事務所又は営業所に関する業務に対する訴えは、事務所又は営業所の所在地で裁判を起こすことができます。

具体例 土地管轄(訴状を提出できる裁判所) 具体例のケース
原告Aさん(顧客) 横浜地方裁判所
被告B社(事業所) 事務所又は営業所の住所地を管轄する裁判所 東京地方裁判所
被告B社(本社) 被告B社代表者等の住所地を管轄する裁判所 名古屋地方裁判所

具体例では、原告のAさんは被告B社の本社の住所地を管轄する名古屋地方裁判所のみならず、事務所又は営業所の住所地を管轄する裁判所たる東京地方裁判所に対しても訴訟提起することができるということになります。

(5) 相続権・遺留分に関する訴え、遺贈・死亡によって効力を生ずべき行為に関する訴え

相続権・遺留分に関する訴え又は遺贈・死亡によって効力を生ずべき行為に関する訴えは、相続開始時における被相続人(亡くなった方)の住所地で裁判を起こすことができます。

具体例 土地管轄(訴状を提出できる裁判所) 具体例のケース
相続人の原告Aさん 原告Aさんの住所地を管轄する裁判所 横浜地方裁判所
相続人の被告Bさん 被告Bさんの住所地を管轄する裁判所 東京地方裁判所
被相続人甲さん 被相続人甲さんの住所地を管轄する裁判所 大阪地方裁判所

具体例の場合、原告Aさんは被相続人甲さんの亡くなった時点での住所地を管轄する裁判所(大阪地方裁判所)に対しても訴訟を提起することができるということになります。

訴訟を起こすためにはいくらくらいかかるのか

貼用印紙額について

訴訟を提起しようとする原告は、訴状に収入印紙を貼らなければなりません。

収入印紙を購入し、訴状に貼ることで、裁判の手数料を裁判所へ納付することになるのです。

民事訴訟においては、それぞれ訴訟物の価額(訴額)というものを裁判で問題とされる経済的な利益額を基準にして導き出すのが原則ですが、印紙額はこの訴額をベースに決まることになります。

例えば、100万円の損害賠償を請求する場合、1万円の収入印紙が必要になりますし、これが300万円の請求ですと2万円の収入印紙が必要となります。

予納郵券について

予納郵券とは、郵便切手のことです。

原告が訴訟を提起すると、裁判所は被告等に対して、訴状、呼出状、判決等の書類を郵送(送達)します。

これらの手続に必要な郵便切手は原告側が先に納めなければなりません。しかも、一回一回の送達手続ごとに裁判所が原告に対して郵券の納付を請求するのでは極めて煩雑です。そこで、裁判所は訴訟の進行上通常予想される数回分の送達に要する郵便切手を予め原告に納付させるのです。これを予納郵券といいます。

予納郵券は、訴訟が終了時点で未使用分があれば返還してもらえますが、逆に訴訟が少しでも長引くと不足分が出て追納を求められることがあります。

予納郵券の額は、全国の裁判所で統一されておらず、各裁判所によって金額や必要枚数が異なっています。

この予納郵券額は、通常6,000円程度ですが、全国の裁判所で統一されているわけではなく、裁判所ごとに若干の違い(差額)があるようです。

また、予納郵券は切手の金額と枚数も通常裁判所から指定されるため、注意が必要です。

簡易裁判所と地方裁判所の違い

民事訴訟で第一審として関わることの多い簡易裁判所と地方裁判所。それぞれの違いとは何でしょうか。

大きくいうと、原告の請求額の大きさによってどちらかの裁判所へ振り分けがなされる、ということができます。

具体的には、請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所の取扱い、140万円を超える場合は地方裁判所の取扱いとなります。

どちらの裁判所も通常の訴訟手続においては、証拠を示しつつ事実を立証していく点など、訴訟の進行方法に大きな違いがあるわけではありません。もっとも、簡易裁判所ではあくまで事件を簡易迅速に処理するという建前があるため、裁判官が、争点が多いであるとか事件が複雑であると判断すると、事件を簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所へ移送する(送る)という手続を取る場合があります。

一方、簡易裁判所と地方裁判所で異なる点もいくつかあります。

まず、簡易裁判所においては地方裁判所と異なり民事調停、支払督促、少額訴訟といった簡易裁判所に独特な手続が存在します。民事調停で和解が成立すると裁判所の判決と同じ効力が得られます。

次に、裁判所に出廷できる代理人の種類に違いがあり、簡易裁判所においては裁判所が許可さえすれば誰でも代理人になることができますが、地方裁判所においては弁護士のほかは会社の支配人など極めて限られた者しか代理人になることができません。

また、簡易裁判所においては、被告は擬制陳述といって出廷することなく書面によって主張をすることができるのに対して、地方裁判所では第1回期日においてしかこの擬制陳述は認められません。

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