有責配偶者からの婚姻費用分担請求は制限されるのか
離婚交渉や離婚調停において、相手方配偶者からの婚姻費用分担の請求に対し、相手方配偶者は不貞行為を行っており有責配偶者なのだから、婚姻費用は請求できないのではないかというご相談をよく頂きます。今回は家庭裁判所での実務上有責配偶者からの婚姻費用分担請求は制限されるのかどうかについて見ていきたいと思います。
家庭裁判所の実務は
家庭裁判所での実務上、有責配偶者からの婚姻費用分担請求が信義則違反等であり制限されるとの主張が認められるのは、権利者(請求者)の不貞行為がある場合にほぼ限られています。
この点過去の裁判例をみても、不貞行為の原因以外で有責配偶者からの婚姻費用分担請求が制限されたのは、権利者(妻・母親)が別居開始当日に子をたたく、足で蹴る、首を絞める、壁に押し当てて両肩を掴む、これを止めようとした義務者(夫・父親)の手を包丁で傷つけたというやや極端な児童虐待や暴力行為の絡む事案(東京高等裁判所平成31年1月31日判決)などが散見される程度で、決して多いとはいえません。
同居義務違反の主張はどうか
権利者が義務者に無断で独居を開始したというケースにおいて、義務者から、権利者は無断で別居を開始したのだから同居義務違反であり悪意の遺棄に当たり、そのような者からの婚姻費用分担請求は信義則上許されない旨の主張がなされることがあります。
しかし、婚姻費用分担義務は、婚姻という法律関係自体から生じる義務であり、夫婦が同居し共同生活を営んでいることなどの事実に基礎を置くものではありませんので、権利者が同居義務を履行していないからといって義務者が婚姻費用分担義務を免れ、あるいは分担額が減額されるものではありません。
不貞行為の立証はどの程度のものが必要か
ここで必要となる不貞行為の立証の程度ですが、家庭裁判所は婚姻費用分担の金額の認定(のみ)のためにわざわざ当事者の尋問手続きを行うなどの対応を取ることはまずありませんので、権利者が不貞行為を自ら認めているか、興信所の調査報告書などで権利者の不貞行為の存在が証拠上客観的に明らかであることが必要です。
不貞行為の存在により婚姻費用はどの程度減額されるのか
権利者の不貞行為の存在により、権利者は自身の婚姻費用を義務者に対して請求することはできませんが、子がいればその分の婚姻費用は請求できるとするのが家庭裁判所の実務です。
まとめ
権利者(請求者)の不貞行為がある場合には、信義則違反等として、婚姻費用分担請求が制限される場合がありますが、それ以外の理由(例えば権利者が勝手に家を出て行った)だけで婚姻費用分担請求が制限されるものではありません。
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