妻が別居時に夫名義の財産を持ち出し。夫は妻に損害賠償請求できるか?
夫婦の一方(ここでは「妻」と想定します)が夫との別居を決意して自宅を出る際、夫名義の財産、たとえば預金のキャッシュカード、債券、自動車など・・を持ち出すことがあります。このような妻による夫名義の財産の持ち出しについて、夫は妻に対して損害賠償請求できるのでしょうか?
この点、裁判例は、妻が別居時に債券2016万円分を持ち出したという事実関係の下で夫が妻に対して債券持ち出し分の損害賠償請求をしたという事案で、まずそのうち510万円分については妻がその実父から相続した特有財産であるとして持ち出し行為に違法性はないと判断した上で、それ以外の債券について次のように判断しました。
「夫婦の一方が婚姻中に他方の協力の下に稼働して得た収入で取得した財産は、実質的には夫婦の共有財産であって、性質上特に一方のみが管理するような財産を除いては、婚姻継続中は夫婦共同で右財産を管理するのが通常であり、婚姻関係が破綻して離婚に至った場合には、その実質的共有関係を清算するためには、財産分与が予定されている」、「婚姻関係が悪化して、夫婦の一方が別居を決意して家を出る際、夫婦の実質的共有に属する財産の一部を持ち出したとしても、その持ち出した財産が将来の財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱したとか、他方を困惑させる等不当な目的をもって持ち出したなどの特段の事情がない限り違法性はなく、不法行為とならないものと解するのが相当である」(東京地方裁判所平成4年8月26日判決)。
すなわち、原則として妻による夫名義の財産の持ち出しは違法性に欠けていて不法行為にはならないと判断されたのです。当然、夫からの損害賠償請求は認められませんでした。結局妻による夫名義の財産の持ち出しは、先行的な財産分与として扱われることになると思われます。
このように、別居の際の財産の持ち去りは、財産分与において許容される実質的共用財産の2分の1の範囲内に留まる限り、違法性はなく、不法行為にはならないと考えられます。
もっとも、別居時の夫名義の財産の持ち去りは、後々の離婚や財産分与の際にトラブルの元となりかねないこともまた事実です。別居前に夫の財産の状況を保全(確認して証拠に残しておくこと)は一案ですが、不必要な夫の財産の持ち出しはできるかぎり控えた方がよいでしょう。
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