交際した相手方が既婚者だと知らなかった場合、どうなるか

相手方が独身だと思って交際していたのに、その後実は既婚者であることが発覚し、その上不貞行為であるとして相手方の配偶者から慰謝料を請求されるケースがあります。騙されていた側としては二重の精神的ショックを被ることになるわけですが、ここでは相手方配偶者からの慰謝料請求が実際に認められる可能性について解説させて頂きます。

~交際中に相手方が既婚者でないかどうかを確認する義務はあるか~

裁判例はこのような確認義務を否定しています。すなわち、交際にあたって事前に相手方が既婚者ではないかどうかを確認する一般的な義務は存在しないといえます。

ただし、次のように具体的な事例のもとに相手方が既婚者でないかどうかを確認する義務が生じ、これを怠った場合は故意過失ありとして相手方配偶者に対する慰謝料の支払い義務を認めた裁判例があります。

~相手方が既婚者でないかどうかを確認しなかったことに故意過失を認めた事例~

東京地方裁判所平成30年5月25日判決は、被告のYが相手方Aに幼い子がいることを知っていたこと、相手方の配偶者XとXの仕事上の同僚を交えて実際に会う機会があったこと、YがAの車に一緒に乗った際にAの車にチャイルドシートが取り付けられていたこと、などからYにAが既婚者であることを知らなかったことについて過失を認め、Yの慰謝料損害賠償義務を認めました。

横浜地裁川崎支部令和元年7月12日判決も、年齢や見た目などから相手方Aがかつて結婚していたことが十分に疑われるという状況の下、離婚や死別の事実を十分に確認しなかったYにAが既婚者であることを知らなかったことについて過失を認め、Yの慰謝料損害賠償義務を認めました。

~相手方が既婚者でないかどうかを確認しなかったことに故意過失が認められなかった事例~

一方、裁判例には、具体的な事実関係のもとで相手方が既婚者でないかどうかを確認する義務があったとは認められず、確認しなかったことについて故意過失が認められないとした事例もあります。

たとえば、東京地裁平成29年11月7日は、相手方AがYと同棲生活に入る前に、自身が独身であるとするメールをYに対して送信しており、Yに対して自信が配偶者Xと婚姻関係にあることを打ち明けたのは弁護士から通知を受け取った後であったこと、実際AはYと長期間別居の状況にあったことなどの事実から、YにとってAが既婚者であることを認識することは困難であり、Aが既婚者であることを知らなかったことについてYに過失は認められないとして慰謝料損害賠償義務を否定しました。

また、東京地裁平成29年11月2日判決は、Aが結婚指輪をしておらず職場の同僚もAが結婚していることを知らなかったという状況の下、交際の過程においてもAから独身であることを告げられ、実際毎日LINEのやりとりを行い、頻繁に泊まりのデートに行ったり本来家族で過ごすクリスマスにも泊まりがけで一緒にデートに行ったという事実関係のもとでは、YにとってAが既婚者であることを認識することは困難であり、Aが既婚者であることを知らなかったことについてYに過失は認められないとして慰謝料損害賠償義務を否定しました。

このように、裁判例は相手方が積極的に独身であることを偽っていたり長期別居中であるなどして独身に近い内容の交際を行っていた場合には、相手方が既婚者であることを認識することは困難であり過失は認められないと認めるケースが多いようですが、これから生ずる案件ごとの個別的な事実関係に応じて事件の見通しを慎重に判断することが必要であることは間違いないでしょう。

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